★アプローチの概要

  【操体法とは】
   仙台の故橋本敬三医師が提唱された“体の動かし方の原理・原則”である。原理は極めて簡単で≪動かすことによって現れたり増えたりする症状は、動かすことによって減らしたり無くしたりすることができる≫というものである。動かすに当たっての指標は、“動かすことによって変化する感覚”である。

   その極意は、犬・猫・鳥・赤ちゃん等々、すべての動物が目覚めた時等にする“伸び縮み”の無意識の動きにある。戦前より、このことの大切さに気づかれた橋本敬三師は、肩凝りや腰痛などの不定愁訴や運動器系の異常に証拠があることから“治療法”にウェイトをおいておられた時期がある。
 
  その後、自らが自らのからだを動かし、自らが快いと感ずる方向に、自らが快いと感ずるように動かせば、それまで感じていた不快が解消することから、“からだの動かし方の法則”という意味で、『操体法』と言われるようになった。その後、“生き方の自然法則”の探求を勧められ、自然法則にかなった生き方を説かれ、『操体道』と言われた時期もあった。

  巷にあるいろいろな手技療法とは違い、“当人の感覚を指標”とするため、東西の医学雑誌にも多数の論文を投稿されたが、素直に受け入れるには至らなかった。それに、本来動物として無意識的にしていた動きを、意識的にするにはいくつもの壁があった。

  【私の臨床】
   奈良漢方治療研究所所長、併設する北村漢方鍼灸科は“鍼灸をしない鍼灸院”を、妻が管理薬剤師をする北村薬局は“薬を売らない薬局”を、本気で探求して8年目になる。〔自然の力・いのちの力・自分の選択・家族の力・医療の力〕等の内、“何を主体”と観て、どのような“支援体制”で望むことが、本来の自然回復の可能性を拓くことになるのか模索してきた。

   それゆえ実際の臨床においては、東洋医学における“四診”〔望診・聞診・問診・切診〕に加えて、操体法における〔動診〕を加えて“五診”を実践している。治療の場面においては、余計な手出しはめったにしないようにしている。クライアントの多くは、治療に際していっさい手を触れずに行う施術というものを体験したことがなく、最初は戸惑われるが、操体を進めるうちに、私が意図していることを汲み取ってくださる。そして≪自分が体を動かすことにより、自分のからだが変化すること。自分のからだがその動いたことによる変化を教えてくれていること。自分のからだの大小さまざまの変化を、自分が感じていること。その感覚の変化を指標として、自分がその変化に対応することができるということ。専門家にしてもらう治療から、自分自身が日常的にする調整ことこそが大切だということ。そのうえで、自分にわからないことは検査の力を借り、自分の手に負えないことに関して医療の力を借りる≫という基本原理と原則の“気づきと実践のプロセス”を踏んでいただけるようになる。

   実際の取り組の一端を書いておきたいと思います。
   ○ 最初の“お断り”
   ・「貴方のからだを治す力は、私には微塵もありません」という事のお断り。
   ○ 最初の“了解”
   ・「元気ってご存知でしょう! 元々貴方のからだに備わっている元気を、一緒に最大限まで引き出してみませんか?!」という事の了解。
   ○ 動かして変化する症状を、一緒に“確認”・・・動かして診ることを“動診”と言う
   ・六種類の基本の動きに関し、「観察記録用紙」を使って観察記録。
   ○ 動かすということの意味と、感じるということの意味を、一緒に“考察”
   ・「今、からだを動かされたのはどなたですか?」
   ・「今、からだの変化を感じられたのはどなたですか?」
   ・「今、不快感として動きの問題を教えてくれたのは・・・?」
   ・「今、その問題を快方へ戻すのは何方がすればよいのでしょうか?」
   ○ 快方への戻し方の基本を、一緒に“確認”
   ・本来の快は、肩や腰や胃等体の部分の存在感さえ“無”であるということ。
   ・“無”で無くなるという事は、“無理がある”ということ。
   ・大なり小なり症状を自覚したというところが、“折り返し点”であること
   ・自覚する症状は、〔痛み・だるさ・重さ・突っ張り・こり〕等いろいろ
   ・自覚する部位も、〔首・肩・背中・腰・胸・腹・手・足〕等いろいろ
   ・自覚する程度も、〔微弱・弱・中・強・強烈〕等いろいろ
   ・自覚する動きも、〔伸びた時・縮んだ時・捻じれた時〕等いろいろ
   ・以上の“すべての動きに共通”して、症状の〔増える動き・減る動き〕がある
   ・自分で動こうが他人が動かそうが、“減る方へ、減る様に動かすこと”が課題
   ○ 快方への戻し方を、一緒に“練習”・・・この快い方への動きを“操体”と言う
   ・快方へ、快適性を実感しながら動くこと ⇒ 『快適性実感の原則』
   ・その人の快さを追求すること ⇒ 個体適正の原則
   ・その時々の変化に応じた快さを追求すること ⇒ 時間適正の原則
   ・その部分も、他の部分も、共に快さを追求すること⇒ 全体適正の原則
   ・からだ全体の安定性を追及すること ⇒ 重心安定の原則
   ・自他共に、その対応の快さを追求すること ⇒ 対応適正の原則
   ・肌身に触れる全ての物事の快さを追求すること ⇒ 空間適正の原則
   ・自分も、相手も、共に快さを追求すること ⇒ 快適関係の原則
   ○ 操体をした後の変化を、再度動診をして、一緒に“考察”
   ・六種類の基本の動きに関し、「観察記録用紙」を使って観察記録。
   ・操体の前と後の変化を、本人が評価しはコメントを記入
   ○ 日常生活における活用の仕方を、一緒に“習得”
   ・日常生活の場所〔寝床・炊事場・便所・畑・車中・教室〕等での応用
   ・日常動作〔寝起き・立ち座り・上げ下ろし・振り向き〕等への応用
   ・病室や病床での応用
   ・介助や治療としての応用
   ○ 難病や難症の患者さんと、一緒に“模索”
   ・来診できない人に、電話による操体や指導
   ・家族が習得することにより、素人同士の操体や指導でも十分に効果
   ・入院中の患者さんであっても、快く動くことは自分でできる
   ・入院中の患者さんであっても、主治医の了解のもとで操体をしてあげる事は可能
   ・不快部に快く“手当て”するだけでも、ある程度の変化がある
   ・不快部を擦るについても、皮膚に“擦ると快い方向”があり、応用可
   ・“動く”ということに限らず、“からだに快いこと”を探求する
   ・探求する課題は、自らの〔息・食・動・想〕の調整と〔生活の場〕との快適な関係

   ◇ 快くなる“息遣い”を心がける: 適度に長~く快く“息を吹き返す”
               おいしく快くなる空気を取り入れる
   ◇ 快くなる“飲食”を心がける : 充分な空腹感を持って飲食に臨む
              できるだけ“生命力”を落とさずに料理
              胃の存在感を感じる程には食べない
              その人の体調に合った食べ方をする
              弱者・病人・先人に学ぶべきことを学ぶ
              調理や保存の智慧を先人に学ぶ
              気候風土に合った作物を活かす
   ◇ 快くなる“動き”を心がける: 基本として、無理することを良しとしない
               動き方の指標としての“感覚”を活かす
               動かすと、動きに反応する“歪み”も変化する
               動診は、自分でする一種の“運動負荷試験”
               頑張るとか我慢するという事は、好ましくない
               痛く無い“微症状”にも、それなりの意味がある
               微症状も激痛も、同じく問題を意味している
               動いて感じれば、そこが“折り返し点”
               それ以上進むな! そこから戻れ! という信号
               自分が戻せるところは、自分で戻すというのが基本
               社会が容認している無理も見直すこと
               動きを直すと、異常感覚が治る、という事に気づく
               その不足や不備を補完するのに、人手を借りる
  ◇ 快くなる“心境”を心がける: 関心を内に向け、まず“自分のからだとのコミニュ
               ケーション”を充分に図ること
               からだは常に良くあろうとしていることを自覚
               まず自分が、自分のからだの意に沿う様に自律
               自分も含めた人間の対応や自然の環境も、自らの感
               覚に照合して見直してみること
               個々が生命感に裏打ちされた生命観を共有


【今回の実技の概要】 ①動いてみて分かること・・・「観察記録用紙」の記入
               ②動き方のコツを、自分のからだに教わる
               ③動いてみて変化を確認・・・「観察記録用紙」の記入
   
【参考文献等】
・『万病の治せる妙療法』 橋本敬三著 農文協
・『からだの設計にミスはない』 橋本敬三著 谷口書店
・『生体の歪を正す』 橋本敬三著 創元社
・『痛みが抜ける ゆるやか操体法』DVD&VHS 北村翰男監修 農文協
・『操体法 基礎テキスト』 共著 奈良操体の会

【関連ホームページ】  奈良操体の会 http://nara-soutai.net/
【連絡先】 北村翰男 sanoya@crocus.ocn.ne.jp
      〒630-8296 奈良市後藤町27   TEL 0742-22-4959